Nanako Kawano

work#03

Nanako

Kawano

河野奈菜子

東芝エネルギーシステムズ株式会社

原子力システム設計部

システム設計第三グループ

  • 2020年

    お茶の水女子大学 理学部化学科卒業

  • 2022年

    東京工業大学 環境社会理工学院 融合理工学系
    原子核工学コース修了

  • 2022年

    東芝エネルギーシステムズ株式会社入社
    原子力システム設計部 システム設計第三グループ

2024.04.22

「こわい」と思ったからこそ、理解したかった原子力

13歳で東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故を経験

2011年3月11日14時46分。
東日本大震災が発生したこのときのことを、今も鮮明に覚えています。

私は東京にいて、中学1年生でした。
ホームルームの時間中に教室が揺れ出したので、普段の避難訓練通りにみんなすぐに机の下に潜りました。

でも、揺れがどんどん大きくなり、これまでに体験したことがないほどになり、それが長く続いたので泣き出す子も出てきました。私もパニック寸前でしたから、このときの教室の光景は今でも忘れることができません。

その後の事故については、連日のニュースで衝撃的な映像が流れ、「原子力」や「放射線」という耳慣れない言葉を聞くたびに、漠然とした恐怖を感じました。

でも、ただの言葉を恐がっていても仕方ないですし、何とかこの得体の知れない恐怖に立ち向かう方法はないのかと思っていました。
そんなとき頭に浮かんだのが、理科好きの女の子なら誰もが憧れる科学者マリー・キュリーの言葉です。

「人生に恐れることなど何もなく、あるのは理解すべきことだけです。今すべきことは理解を深めること。それによって恐れに打ち勝つのです」
‘Nothing in your life is to be feared. It is only to be understood.’

この言葉に触発され、私は自分なりに勉強を始めました。
図書館で関連する本を探したり、新聞を読んだり、ネットで検索したり。
手当たり次第の方法でしたが、「原子力」や「放射線」についての知識が深まるにつれ、怖いという漠然とした不安が薄れ、逆に興味が湧いてきたんです。

知れば知るほど面白くなった原子力

少量の原料から大量のエネルギーを取り出すことができる原子核反応は、本当にすごいと純粋に感動しました。
その一方、広島、長崎の原爆に関することや、放射性廃棄物、核セキュリティなど、原子力発電の課題についても知りました。

そのうえで、確かに危険やリスクはあるけれど、こんなに素晴らしい技術を怖いと思って使わないのはもったいないと感じました。
当時の私の素直な気持ちです。
このときのことが、今の私の原点であり、原子力の道に踏み出すきっかけとなりました。

社会の風潮が気になった高校・大学時代

高校時代も原子力への興味は持ち続けていましたが、福島第一原子力発電所の事故の影響が大きく、それを堂々と言えるような風潮ではなかったので、その思いは自分の中だけにしまっていました。
大学は理学部化学科に進学しました。理学部なら、誰からも批判されず、原子力の根幹である理論を学ぶことができると思ったからです。

やがて大学3年生になって将来の職業などを考え始めた頃、原子力を取り巻く社会の状況は少し変化していました。
地球温暖化対策やエネルギーセキュリティの観点から、原子力発電が必要だという認識が高まってきていると感じましたし、現に、対策が整った原子力発電所は再稼働する方向に動いていました。

福島第一原子力発電所の事故から10年が経過し、原子力を取り巻く状況は好転しつつありましたが、私はまだ原子力の仕事に従事することには踏み切れませんでした。
そこで、就職ではなく、原子力を体系的に学べる大学院に進学することにしました。
原子力について堂々と学び、漠然とした恐れを払拭したい。そのうえで安全な利用方法について考えたいと思ったのです。

原子力にのめり込んだ大学院時代

大学院では、物理的な理論から工学、法律、倫理、国内外のエネルギー情勢や社会問題まで幅広く勉強し、修士論文では原子力分野の最先端技術のひとつである核融合をテーマにしました。履修できる全ての科目での単位取得を目指し、同時に研究にも取り組みました。

修士課程1年生のときには、国際原子力機関(IAEA)の「マリー・スクウォドフスカ・キュリー・フェローシップ・プログラム(MSCFP)」の奨学金を得ることができ、日本では深夜にあたる欧州時間に開催される、IAEA主催のオンライン講義やe-Learningにも参加しました。

昼夜を問わず勉強するのは体力的に厳しかったですが、原子力について得られる知識は全て学びたい。そんな知識欲に突き動かされ、夢中で机に向かいました。
それまで押さえつけていたものが一気に解放され、原子力の勉強にのめり込んでしまったという感じです。

マリー・キュリーの偉業に基づいた奨学金

「MSCFP」は、原子力の修士号取得を目指す女子学生に、修士課程における奨学金と、IAEAが推進するインターンシップに最大12か月参加する機会を提供する制度で、2020年にIAEAによって創設されました。
私は幸運にも、憧れのマリー・キュリーの名を冠したこのプログラムの最初の年に参加することができました。

世界中で選ばれた100人の奨学生とともに、核セキュリティや放射性廃棄物について学び、議論する場を得たことはたいへん貴重な体験でした。
とくに印象深かったのは、他の国の学生たちが、原子力の平和利用について大変熱心に学び、各々にできることを積極的かつ主体的に考えていたことです。

日本で勉強するだけでは知り得なかった、違う背景を持つ他国の人々の考えに触れたことは、原子力をより深く理解するための助けにもなりました。
だからこそ、原子力に携わりたいという意志のあるもっと多くの日本の女子学生の皆さんに、世界へと視野を広げ、自らの夢を叶えるために「MSCFP」を活用してほしいと思います。
The IAEA Marie Skłodowska-Curie Fellowship Programme

福島を忘れず、原子力発電の仕事に取り組む

大学院を修了後は、福島第一原子力発電所と同じ沸騰水型原子炉(BWR)の製品や技術サービスを扱う東芝エネルギーシステムズに入社しました。
福島第一原子力発電所の事故が原点にある私にとって、福島のことを忘れず原子力に関わることのできるよい職場だと考えたからです。

入社2年目の今は、原子力システム設計部に所属し、原子炉格納容器の機器とシステムを設計する業務を行っています。
設計と言っても図面を描くだけではありません。取引先の方々との打合せや、安全な製品を合理的かつ確実につくるためのマネージメントも重要な仕事です。

最近では、女川原子力発電所2号機の再稼働に向けた安全対策工事に携わり、原子炉格納容器の耐震補強工事を担当しました。
大規模な工事を安全かつ短期間で行うために何度も現場へ足を運び、現場の状況を自分の目で確認し、作業員の方々と直接話し合いました。

ミスがあってはならない厳しい環境の中で、入社2年目の私には未経験なことも多く、緊張したり苦労したりすることもあります。そんなときは、迷わず先輩に頼ります。
私の職場では、経験豊富な先輩が、1対1で後輩をバックアップするメンター制度があります。何でも相談できるメンターの存在は、常に私の支えになっています。

夢は原子力の明るい未来をつくること

原子力発電の巨大なプラントを前にすると、一人の人間ができることは限られているという現実を突きつけられます。
その現実をしっかりと受け止め、限られてはいても、できることには責任を持って取り組み、自分のできることの範囲を少しでも広げていく努力をしたいと思います。

そして、私の夢は原子力の明るい未来をつくること。
その原点は福島第一原子力発電所の事故による原子力への恐怖であり、今でも払拭しきれないイメージとして残っています。
だからこそ、自分が安全安心だと納得できるプラントをつくり、人々の生活を豊かにすることで原子力の明るい未来を切り開いていきたいのです。
(この記事の内容は、インタビュー当時のものを掲載しています)