Yukiko Okada

work#01

Yukiko

Okada

岡田往子

内閣府 原子力委員

東京都市大学理工学部客員教授

  • 1980年

    日本大学農獣医学部 水産学科卒業 東京工業大学 研究生

  • 1981年

    武蔵工業大学(現・東京都市大学)原子力研究所技術員

  • 1994年

    千葉大学博士(理学)取得

  • 1998年

    武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部エネルギー基礎工学科講師

  • 2009年

    武蔵工業大学(現・東京都市大学)工学部原子力安全工学科准教授

  • 2020年

    東京都市大学理工学部客員准教授

  • 2022年

    内閣府原子力委員会委員

  • 2023年

    東京都市大学理工学部原子力研究所客員教授

2023.12.14

国民の思いを行政に

国民に思いをとどけたい

私は、思いがけず要請を受け、2022年6月に内閣府の原子力委員会委員に就任しました。
非常勤で、任期は3年です。
就任要請を受けたのには、いくつかの理由があります。

日本のエネルギー事情を踏まえれば、原子力の活用は不可欠だと考えています。
日本が原子力を使っていかなければならないのなら、国民にわかりやすく説明し、理解してもらう必要があります。
そのために、長年にわたって草の根の理解活動を続けてきたつもりでしたので、原子力委員として、その思いを行政に届けるのは私の役割かもしれないと思いました。

図らずも得られた好機をいかし、原子力分野における女性の活躍を後押ししたいとも思いました。

2022年2月にロシアのウクライナ侵略があり、エネルギー資源をロシアに依存していたヨーロッパを中心に、世界のエネルギー市場が混乱に陥りました。
日本でも、エネルギー安全保障への認識が高まり、地政学的な影響を受けにくい原子力利用拡大を訴える専門家も多くいました。
しかし、こういうときこそ冷静に考え、きちんと手順を踏み、国民の皆さんに原子力利用の意義について丁寧に説明すべきだと感じていました。それも原子力委員としての大事な役割ではないかという思いもありました。

原子力委員会は、原子力の研究、開発、利用にかかわる政策に関することについて、企画し、審議し、決定することを所掌しています。(参照 : 原子力委員会の役割
委員会は週に1回、通常、火曜日に公開で開催され、それ以外の打ち合わせなども数多くあります。
議題は多岐にわたり、経験のない分野に及ぶこともありますので、勉強しなければならないことも多くあります。
就任前には想像できなかった大変さではありますが、重責ですのでしっかりと準備して、やりがいを感じながら取り組んでいます。

科学教室が理解への第一歩

エネルギーや原子力を正しく理解してもらうには教育が大事です。
難しい授業ではなく、体験型の楽しい授業を行うことで、子供たちに興味を持ってもらえれば、それが理解への第一歩に繫がります。

私は、子供たちとの科学教室を40年以上続けてきました。
そのきっかけは、「日本は被ばく国だから原子力を受け入れられない」とか、「物理を知らない女性や子供たちに説明するのは無理」と言う、当時の教授陣の言葉に反発したことでした。
40年前はちょっと生意気な研究員だったんです。

小学生の科学教室では、教室の前方に水素、後方にラジウムの元素カードを置き、「軽い方から重い方へ移動しよう!」と言って駆け回りながら元素の周期表を覚えたり、アルコールの過飽和蒸気の中を通る放射線が観察できる「霧箱」を使って放射線を数えたり。
楽しく学べるよう工夫しながら、道具や教材も準備しました。

「リケジョ」をもっと増やしたい

こうした教育の一環として、女子中高生を対象にした科学教室にも力を入れてきました。もっと理系の女子学生を増やしたいと思ったからです。
実験をしながら楽しく学ぶのは小学生と同じですが、「女性は物理が苦手」というバイアスを取り払いたかったので、女子中高生には物理の法則まで教えるようにしました。

偏光板で箱の中に虹を作る実験は、小学生とは楽しい工作にしましたが、女子中高生には、波長による屈折の違いから光が七色に分かれることまで説明し、「霧箱」の実験では、ただ放射線を数えるだけでなく、その現象が起こる理由まで教えました。

こうした取り組みを通じて科学や物理の面白さを知ってもらい、一人でも多くの女子学生に理系の道に進んでほしいと思います。そうすれば、彼女たちが、その先にある原子力分野へ続く扉を開き、キャリアを築いてくれるかもしれません。

WiN-Japanでも、理系進路選択支援事業として、夏休みに開催される「女子中高生夏の学校(夏学)」に参画しています。WiN-Japanの会員が、進路の悩み相談に応じたり、自らの経験を話したりしながら理系の魅力を伝えています。

目指すのはジェンダーバランスの改善

日本における女性の社会進出は以前より進んでいるとはいえ、原子力の分野ではまだまだ不十分です。
2023年のOECD/NEA(経済協力開発機構/原子力機関)の加盟国別アンケート調査では、原子力分野の全労働者に占める女性比率の平均が24.9%であるのに対し、日本は約15%で最下位。女性昇進者の割合も、20%以下は日本だけという結果で最下位でした。男性との賃金格差については、ノルウェーやフランスのように格差のない国がある一方で、日本は韓国と並んで25%以上も低いという結果でした。

OECD/NEAは、32ヵ国、約8000名を対象に定性的アンケート調査も実施しました。
その結果、日本では、半数が「給与、評価、機会不平等」と回答、「職場が女性を支援している」と回答したのも半数以下でした。

この調査結果を受け、今年6月、OECD/NEAから、原子力分野におけるジェンダーバランスの改善に向けた勧告が出されました。
私が原子力委員を務めているときに、こうした動きがあったのはいいタイミングでした。
もちろんすぐに、原子力委員会に報告し、勧告を受けたことによる日本独自の取り組みの必要性を強く訴え、改善策を提案しました。

OECD/NEAでは、勧告の実施と監視を促進するため、以下の3つの作業部会が再組織化される予定です。
• Attract(Women into the nuclear sector) / 勧誘(原子力分野への女性進出)
• Retain(Support women in the workforce) / 保持(女性の社会進出を支援)
• Advance(Develop women as leaders) / 前進(リーダーとしての女性の育成)

Recommendation on Improving the Gender Balance in the Nuclear Sector: Message from women leaders

今後は日本も、他国に遅れを取ることなく、関係機関や関係者が一丸となってジェンダーバランス改善に向けて努力することを惜しまないでほしいと思います。

原子力分野の国別ジェンダーバランス

Mean excludes Russia due to the large sample size. Grey bar indicates sample size less than 10.GENDER BALANCE IN THE NUCLEAR SECTOR, NEA No. 7583, ⓒOECD 2023

全労働者に占める女性比率

女性昇進比率

男女賃金格差

女性たちへのメッセージ

原子力は総合科学技術ですから、原子力界には、STEM分野の優秀な人材が必要です。
原子力を安全に利用するための安全文化の醸成にも、豊富な人材が必要です。
それは男女ともに必要なのです。
にもかかわらず、人類の半分である女性の力が充分に活用されていません。

ですから、
将来世代の女性のみなさん、ぜひ原子力への道を選んでください。
現役で原子力の仕事をしている女性の皆さん、なにがあっても仲間がいることを忘れず、楽しく仕事を続けてください。
原子力の分野でキャリアを築いた女性の皆さん、仕事としてではなく、ボランティアの精神で、ジェンダーバランスの改善に尽力してください。

私は、原子力委員に就任した当初から、どんな議題やテーマであっても、定例会議では必ず女性の登用や活躍についての質問をしてきました。
その成果が少しずつ見えはじめ、業界トップの方々と、ジェンダーバランスの改善をテーマに意見交換ができるようになりました。

そして今、女性が原子力の仕事を続けることができる環境が、少しずつよい方向に変わりつつあることを実感しています。
その流れを止めないよう、これからも精一杯の活動を続け、原子力分野で活躍する女性を増やす方策を考えていきたいと思います。
(この記事の内容は、インタビュー当時のものを掲載しています)